WILLナビ:よみうりGENKI 次代を担う人材を育てる中高一貫校特集
これからの時代に求められる人材像─私立中高一貫校で育む力─
  1. 成績の順位づけはしない 生徒各々が教養を深めてほしい
  2. 広島修学旅行後に小論文・発表 世界平和への生徒の意識が芽生える
  3. 人生には必ず分岐点がある 大切なのは「自分で選び、責任をとる力」
成績の順位づけはしない
生徒各々が教養を深めてほしい

 雙葉学園は1909年にカトリックの幼きイエス会修道会によって創設されました。「徳においては純真に、義務においては堅実に」を校訓として、「徳育・知育・体育」をバランス良く養う全人教育をめざしています。教科の学びでは、まず基礎固めを大切にしています。このため課題は多く、小テストも頻繁に行っていますが、つまずく生徒には教員が声を掛けてきめ細かく指導をしています。ただし、成績の順位をつけたりそれを発表したりすることはしません。良い意味での切磋琢磨ならいいのですが、席次をつけるとなると、点数のみに目を向ける競争になりがち。成績が良いから立派だなどと、人間の価値が成績のみで測られるようなことになれば、課題やテストそのものの意味がなくなるからです。
 語学教育は創立時より重視しており、英語のほかフランス語教育も行っています。中3ではフランス語が全員必修で、高校では英語かフランス語を第一外国語として選択します。ただ2020年度から始まる新しい大学入試制度で、フランス語が先々どのように扱われるかはっきりしていません。これまで国立大では外国語の試験をフランス語で受験できるところがあり、その一つである一橋大ではフランス語入試の廃止が決まっています。こうした動向は、フランス語を第一外国語としている学校にとって大きな問題です。また、本校では、海外研修は行っていません。希望者だけが行く語学研修にどれだけ効果があるかは疑問だからです。必要を感じれば個人で行くことができますし、実際、個人で留学する生徒もいます。

広島修学旅行後に小論文・発表
世界平和への生徒の意識が芽生える
中3の広島修学旅行の様子

 各学年で宗教の時間があるのも特色の一つです。ここでの基本的な教えは、「自分の命を大切にしてほしい、人の命も大切にしてほしい、そして自分の力を磨いて、自分のためだけでなく、人のために使えるようになってほしい。一人一人を大切にしてほしい。」ということです。そのために中1では、聖書を読むことを中心にカトリックの精神を学びます。中2からは平和、環境、飢餓など、世界のさまざまな問題について学び、社会貢献について考えていきます。
 中学の修学旅行は、原爆の恐ろしさ、戦争のむごさを知り、世界平和の大切さを感じてもらうため、毎年広島に行っています。
  最終日には教皇ヨハネ・パウロ2世が平和宣言した世界平和記念聖堂を訪ね、神父様のお話を聞きます。今まで帰ってきたら感想文を書いていましたが、さらに一歩踏み込んで、昨年からは小論文を作成するようにしました。平和についての自分の考えを小論文にまとめて、「平和スピーチ」としてクラスで発表します。    

世界平和記念聖堂で祈りを捧げる生徒たち
 小論文は最終的に180人全員分を冊子にまとめました。私も読みましたが、広島に行ったことが大きな体験となり、平和についてより真剣に考えるようになったと思います。なかには憲法9条の問題を書いた生徒もいましたし、親戚の方に戦争体験を聞いたときの衝撃を文章にした生徒もいます。これからは、北朝鮮の問題やトランプ政権などについて書く生徒も出てくるのではないかと期待しています。保護者の方と一緒に考える生徒は多く、あらためて家族で広島や長崎に行った生徒もいます。そんなところから将来、どのように自分が平和とかかわることができるのかを考えてほしいと願っています。

人生には必ず分岐点がある
大切なのは「自分で選び、責任をとる力」

 本校は中高一貫校ですが、中3の2学期に一度、高校に上がることについて考えさせます。中学を卒業すれば、仕事ができる年齢なので仕事に就く道もある、高校に行くのであれば、雙葉だけでなくいろいろな学校がある、と。「機械的に雙葉高校に入るのではないのですよ」ということを伝えます。年度によっては芸術系の学校に行く道を選ぶ生徒もいますし、留学の道を選ぶ生徒もいます。どのような道でも自分で選んだ道なら、私たちは応援します。  高校卒業後の進路選びも同じです。大切なのは「自分自身で選ぶ」ことです。自分の力を社会で試していこうとするとき、必ず分岐点があります。そのときに、自分の道は自分で選ぶ、選んだ以上は自分で責任を持つことが大切になってきます。
 高校では文系・理系別のクラスはなく、豊富な選択科目を設けることで大学受験に対応しています。神様が与えてくださった力は人によって違います。それを見極め、どうすれば人のために生かせるか、それにはどこで何を学べばいいのか。大学選びはそこから始まります。名の知れた大学でなくても、自分が学びたい分野では最先端の研究をしている、だからその大学に行きたい。また介護を受ける家族の様子をみて、医学の中でも医学介護士を目指す生徒がいました。そのように視野を広げ目的をしっかりと持って、自分の道を選んでほしいと思っています。
 受験生の皆さんは受験勉強で大変だと思いますが、楽しい小学校生活を送ることも忘れないでください。スポーツをして体力を養い、お友だちと遊び、受験勉強以外のこともたくさんしてほしいと思います。また、広く社会に目を向けることも大切です。テレビのニュース映像だけでなく、新聞や本を読んでください。できれば、家族で社会の問題を話し合う機会を設けましょう。そのようにして、小学生のうちから社会に目を向ける習慣をつけてほしいと思います。

これからの時代に求められる人材像─中高一貫校で育む力─ 駒場東邦中学校・高等学校 校長 平野勲先生 雙葉中学校・高等学校 校長 和田紀代子 先生 渋谷教育学園幕張中学校・高等学校 入試対策室長 永井久昭 先生